1時間で100億円 — 倍になった残高は、まだ誰の手にも渡っていない
先週号で「7/31以降のミントが答え合わせになる」と書きました。答えは、想定の9倍で来ました。 本日7/31の午後、13時49分から14時49分までの1時間に6回のミント(新規発行)が並び、 合計はちょうど100億円 — 6/24のローンチ時に発行された初回100億円と、1円まで同じ額です。 JPYSCの発行残高は116.8億円から200.5億円へ、1日で倍になりました。 同じ日の午前には過去最大の償還16.26億円も出ています。出る方も入る方も、同じ日に記録を更新した1週間です。 ただし増えた100億円はその日のうちに全額が保管用ウォレットへ移り、外部には出ていません — 伸びたのは需要ではなく、渡せる在庫のほうです。
今週の数字7/24終値 → 7/31 18時
| 合算流通量 | 226.8億円 — 週+100.4億円(+79.4%)。1週間でほぼ倍、初の200億円台 |
|---|---|
| JPYSC | 200.5億円 — 週+99.6億円(+98.8%)。7/31に100億円のミントと16.26億円の償還が同日 |
| JPYC | 26.3億円(+2.9%) — 5%キャンペーン最終週。最後の3日は連続の純減 |
| ホルダー | JPYC 70,093アドレス(+222) — 7/30に7万の大台を突破 |
| 週間取引件数(Tx) | 約4.9万件(先週比−46%) — Kaiaの「毎日1万件」が7/28に消えたまま戻らず |
| 世界の中の円 | ドル換算$1.41億(週+79%) — 非ドル圏2位、首位ユーロとの差が9.6倍→5.9倍に |
※ 縦軸は同じ縮尺です。先週号で「単日最大」と書いた7/30の10.82億円が、7/31の隣では低く見えます
今週を1枚にするなら、この図です。土日の静止、週明けの控えめな再開、そして先週号で 「発行後の単日最大」と伝えた7/30の10.82億円 — その翌日に、9.2倍の棒が立ちました。 同じ縮尺で並べると、1週間前の「記録」がどれだけ小さく見えるかが分かります。 そしてこの日は下向きの棒も過去最大です。この7日間に発行された円ステーブルコインは 両コイン合計118.9億円、円へ戻ったのが18.6億円 — まずその中身から見ていきます。
分析① JPYSC — 1時間で100億円、ローンチと同じ額
7/31の午後、JPYSCのチェーン記録に6行が並びます。 13:49・14:06・14:18・14:28・14:40に18億円ずつ、そして14:49に10億円 —1時間ちょうどで、合計100億円。18億円という刻みも、締めの10億円も、 端数のない数字が並びます。手作業の送金というより、決められた額を分割して流した形です。
この100億円という額には、もう一つの意味があります。6/24のローンチ時に発行された初回100億円と、1円まで同額です。 JPYSCはこの日、37日かけて積み上げた体をもう一つ、1時間で作ったことになります。 流通量は116.8億円から200.5億円へ。
※ 目盛りは等間隔(線形)です。7月前半のほぼ水平な線と、最終日の垂直がそのままの比率で並んでいます
そして見落とせないのが、同じ日の午前です。10:54、16億2,605万2,500円が焼却(バーン)されました。 先週金曜(7/24)に「発行後初の償還」として記録した5.32億円の3.1倍で、これも過去最大です。先に大きく戻し、数時間後にその6倍を発行する — 出口と入口が同じ日に、 どちらも過去最大で動きました。往復のレールが本番の金額で二度目の検証を受けた、とも読めます。
※ 両コイン合計で118.9億円が発行され、18.6億円が円へ戻った
では、この100億円はどこへ行ったのか。ここはチェーンが答えを持っています。 6回のミントはすべて発行オペレーション用のウォレット宛で、 その42分後の15:31、90億円と10億円の2回に分けて、全額がそのまま保管用ウォレットへ移されました。 外部のアドレスには、この時点で1円も出ていません。
結果として、7/31時点のJPYSCは200.5億円のうち195.0億円(97.2%)が1つの保管用ウォレットに置かれている状態です (残る5.5億円は発行用ウォレット)。保有アドレス数は3のまま増えていません。これは6/24のローンチ時とまったく同じ動きです — 初回の100億円も、発行されたあと保管用ウォレットへ移されました。
だからこの100億円は、需要の証拠としては読めません。読めるのは供給の側だけ —いつでも渡せる在庫が、1時間で倍になったという事実です。 それが売れたのか、売る準備なのかは、チェーンの外にあります。 SBI VCトレードからは、7/30が締切だったレンディング(年3%・12週固定)の申込総額も第2弾の発表も、 本稿執筆時点で公表がありません。
分析② JPYC — 3アドレスと、7万アドレス
ここで、もう一方の円ステーブルコインを並べてみます。 JPYSCの200.5億円を持っているのは3アドレス。同じ日、JPYCの26.3億円を持っているのは70,093アドレスです。規模はJPYSCが7.6倍ですが、持ち手の数は23,000倍の開きがあります。 残高が運営のウォレットに集まるJPYSCと、7万の財布に散らばるJPYC — 同じ「日本円ステーブルコイン」でも、チェーンに映る姿はまるで別物です。
※ 同じ日のJPYSCの保有アドレス数は3。この図はJPYSCでは描けません
そのJPYCで、今週いちばん重要だったのは出口が開いたことです。 年5%(上乗せ+3%)の上乗せが本日7/31で終わるのを前に、最後の3日(7/29・30・31)がキャンペーン期間で初めての連続純減になりました。 週を通しても発行3.05億円に対し償還2.29億円 — かつて発行一辺倒だったこのコインで、 戻る円が発行の7割超に達しています。 とくに7/30の償還5,271万円は発行以来の単日最大で、その半分がKaia発でした。
流通量は26.3億円(+0.75億円)で、伸びは先週の+5.0%から+2.9%へ半減。 中身の交代も進み、6月末には純増の9割超を占めたKaiaが+0.12億円まで落ちて、Polygonの+0.53億円が首位に入れ替わりました(Ethereum +0.13億、Avalanche −0.03億)。 5%の吸引が細る一方、クイズ配布やポイント交換といったPolygon側の入口は回り続けている —「キャンペーンの円」から「導線の円」への交代です。 ここが8月の焦点になります。利回りが薄れたあと、7万の財布に残るのはどちらの円か。
ニュース面では、7/28の熊本の地震への即応が目を引きました。JPYC社の岡部代表は翌29日、JPYCやUSDCで寄付を受け付け、日本円に償還して自治体・日本赤十字社へ届けるスキームを 金融庁のFintechサポートデスクに照会中と明かしています (NADA NEWS)。 入口も1つ増えました — ポイ活アプリ「モアクト」がポイントのJPYC交換に対応(7/30、Polygon上で発行、CoinPost)。 なおAZ-COM丸和の約10億円出資は7/30が払込期日でしたが、完了を告げるリリースは本号集計までに 確認できていません(JPYC 7/22発表)。
100億円を除くと、見えてくる話
ここまでの数字は、ひとつの巨大な取引に支配されています。一度それを外してみます。
※ 利回りに紐づかない発行・償還も含む純増。第2R(7/16→7/23)は確定値で5.4億 vs 2.0億
JPYSCの今週の純増+99.6億円から100億円のミント1件だけを引くと、−0.35億円になります。 つまりその1件を除けば、JPYSCは今週わずかに縮んでいた — 他のミント15.9億円に対して、償還が16.3億円だったからです。 「JPYSCが1週間で倍になった」と「JPYSCは実質横ばいだった」は、同じ週の同じデータから両方言えます。 どちらか一方だけを見せるのは不誠実なので、両方書いておきます。
この見方に立つと、先々週から続く利回り対決の構図も少し違って見えます。 年3%(JPYSC・上限なし)対 年5%(JPYC・上限あり)の勝負は、ベースの資金フローで見ればほぼ互角 — むしろJPYC側が+0.75億円で上回っています。差をつけているのは利回りではなく、 単発の大口だということです。 そしてその対決自体、今週で形を変えます。Unifiの上乗せ+3%は本日7/31で終了(最終付与8/1)。 8月は「基本2% vs 12週固定3%」の世界です。試されるのは5%が集めたKaiaの18.4億円の粘着性 — 最終3日の連続純減が、その最初の観測点かもしれません。
今週のオンチェーン観察 — 鼓動は、終了を3日待たずに細った
先週この欄で立てた問いは「毎日1万件の鼓動は8/1に止まるのか」でした。 答えは予定より早く、7/28に来ました。
※ 7/29の山は水曜のPolygonクイズ配布(9,795件)。Kaia単独は15,835→1,406件へ落ち、その後も1,300〜1,500件台
Kaiaチェーンの日次転送は7/27の15,835件から7/28に1,406件へ、一夜で91%減(当サイトのKV集計値をチェーン実測で検証済み — 集計漏れではなく実減です)。 そして重要なのはその後です。7/29=1,399件、7/30=1,545件、7/31=1,274件 —4日経っても戻っていません。一時的な谷ではなく、水準が変わりました。 Season 2の告知期限(7/31)より3日早い失速は、 ①主要な配布が予定数に達して前倒しで収束した、②終盤に参加(残高判定の対象維持)をやめる利用者が増えた — このどちらか、または両方とみています。
もう1つ、見逃せない動きがあります。失速前日の7/27、預かりウォレットからの引き出しが1,420件と平常(約110件/日)の13倍に跳ねました。 キャンペーン終盤を見て、預けた円を手元に戻す動きが先行した形です。 金額ベースでも今週のKaiaは+0.12億円まで細り、先週の+0.60億円から5分の1になりました。件数が先に抜け、金額があとから細る — その順番のまま、キャンペーンの幕が下ります。 8/1以降、鼓動が完全に止まるか、Season 3が始まるか — 次号のこの欄で確かめます。
世界の中の円 — 順位は変わらず、距離が変わった
※ JPYバーの内訳: 緑=JPYSC 88%/藍=JPYC 12%。1ドル=160.57円(当サイトの日次更新レート)で換算
円建て合算はドル換算$1.41億。1週間前の$0.79億からほぼ倍です。 非ドル圏2位という順位自体は変わりませんが、上と下の距離が動きました。 首位ユーロ($8.4億)との差は9.6倍から5.9倍へ縮み、 3位スイスフラン($0.56億)との差は1.4倍から2.5倍へ開きました。 先週まで「2位を固めつつある」と書いていた位置が、1日で「2位を引き離して確保した」に変わっています。
一方、ステーブルコインの本体であるドル圏は約$3,074億でほぼ横ばい(USDTは約1,834億ドル、USDCは約719億ドルと共にピーク比減、世界全体は月次で−0.8%)。 円圏の全量はなおドル圏の2,200分の1に過ぎませんが、その比率は先週の3,500分の1から縮んでいます。足踏みするドルと、1日で倍になった円という対照的な週でした。
非ドル圏のライバルも動いています。韓国ではEC最大手Coupangがウリィ銀行と組み、ウォン建てステーブルコインでの加盟店リアルタイム精算PoCを完了(7/27) — 発行合戦から商用ユースケースの段階へ、日本と同じ道を1歩後ろから走ってきています。 同じ韓国からは反面教師も。ゲーム大手Wemade系のWEMIX$が管理者権限の奪取により約523万枚を不正発行され、価格は$0.0008へ崩壊(7/26)。 「誰が・どんな権限で発行できるか」の管理こそがステーブルコインの生命線であることを、 規制の枠外で発行されたコインが証明してしまった週でもありました。
インフラと海外 — 積まれた在庫の、行き先になりうる場所
在庫が積まれたなら、次に見るべきはその出口になる場所です。今週はそれが2件動きました。 不動産大手ケネディクスがProgmat・Datachainとデジタル証券の即時決済(DvP)基盤を整備すると報じられ(7/30日経)、 実証は三井住友FG想定の信託型規格で始めつつ将来はJPYC・JPYSC・USDCにも対応予定。 「約定から2営業日」の証券決済を同時決済に変える計画の部品として、円ステーブルコインが最初から名指しされています。大口の円が置かれる先として、まさに想定される用途です。 日立も17社実証を経てステーブルコイン対応のAML(マネロン対策)監視サービスを10月に始めると発表(7/30)。 カストディに積まれた200億円が動くとすれば、こうした受け皿が整ってからになります。海外は要点だけ、表で。
| 米国(Visa) | 機関投資家向けステーブルコイン基盤を開始し、140社超が支援する新コイン「Open USD」を第1号採用。ただしCEOは「勝者を選ぶのが役割ではない」とマルチコイン戦略を強調(7/29、The Block) |
|---|---|
| 米国(Circle) | USDC発行元CircleがIBMからブロックチェーン特許約1,000件を取得(7/27)。株価は8/5のQ2決算を前に軟調、USDC流通量も約719億ドルと3月ピーク比の減少が続く(Crypto Economy) |
| 米国(Tether) | GENIUS法準拠のUSATがCeloに展開(7/29)。本体USDT(約1,834億ドル)はナイロビ証券取引所とMoU(7/28) — 規制準拠と新興国開拓の二正面作戦(The Block) |
| 米国(規制) | GENIUS法は成立1年を過ぎても6機関すべての最終規則が未完成。コメント受付は8月まで続き、「法はあるが規則がない」まま2年目に(crypto.news) |
今週の一言
先週号で立てた問いは「7/31以降のミントがどれだけ乗るか」でした。 答えは出ましたが、問いのスケールが間違っていたという形で出ました。 10.82億円の裏取りを待っていたら、100億円が来たわけです。 そしてチェーンが教えてくれるのは、何が起きたかまでで、なぜかは教えてくれません。 金額も、時刻も、6回に分けたことも分かる。けれど誰がなぜ100億円を発行したのかは、 公表を待つしかありません。 今週いちばん誠実な要約は、たぶんこうです —日本円ステーブルコインの発行残高は1週間で倍になり、その大半は1件のミントで説明がつき、 その1件を除けば市場はほとんど動いておらず、そしてその1件はまだ誰の手にも渡っていない。 この4つは全部同時に本当です。 「倍になった」の一行だけを持ち出すのは簡単ですが、それだと在庫が積まれたことを需要と読み違えます。 次号は、この100億円が保管用ウォレットから動くのかどうかから始めます。 Weekly Stablecoin #005でお会いしましょう。
本号の数値は当サイトのオンチェーン日次記録(集計期間 2026年7月25日〜7月31日18時JST・7月31日発行)に基づきます。7月31日は日をまたぐ前の途中経過ですが、当日の大きな動き(10:54の償還、13:49〜14:49のミント)はいずれも取得時点で完了しています。本記事は情報提供を目的としたものであり、投資助言ではありません。