円に、利回りが付いた週 — 5% vs 3%の対決が開幕し、「1兆円」が語られた
毎週金曜、日本円ステーブルコインの1週間をオンチェーンデータとニュースで振り返ります。 集計期間は7/10〜7/16(終値ベース)。数値は当サイトが毎日ブロックチェーンから直接記録している日次オンチェーン集計から。
今週の数字
| 合算流通量 | 118.2億円(前週 115.6億円、+2.6億円 / +2.3%) |
|---|---|
| 世界の中の円 | ドル換算で約$0.7億 — フラン建て・ポンド建てを上回り非ドル圏2位(本文で詳報) |
| JPYC | 15.4億円 → 17.4億円(+13.4%)。30日では7.2億→17.4億の+143%。ただし週後半は増勢に変化(後述) |
| JPYSC | 100.2億円 → 100.8億円(+0.5%)。小幅だが、週後半にミントが連日加速という新しい動き(後述) |
| JPYC 週間Tx | 約2.5万件。毎週水曜の1万件バッチの正体も判明(後述) |
先週の+59%という爆発に比べれば、今週の合算+2.3%は「静かな週」に見えます。しかし今週は、 WebXの大舞台で語られた「1兆円」という目標と、当サイトのデータが示す「非ドル圏2位」という現在地が交差した、 円ステーブルコインの節目の週でした。オンチェーンの動きから順に見ていきます。
分析① JPYC +143%の1カ月 — 動かしたのは「決済」ではなく「利回り」。そして今週、蛇口が細り気味に
まず、伸び続けるJPYCの1カ月を引いた画角で見ます。6月中旬まで7億円台で穏やかに推移していた流通量は、 6月末を境に別のレジームに入りました。
屈曲点は6月30日。この日、LINEアプリ上で使えるウォレット「Unifi」がJPYCの利息サービスを開始し、基本年率2%に期間限定の上乗せ3%を加えた年率5%のキャンペーン(〜7/31、予算消化で早期終了あり)を打ちました。 直後の週にJPYCは+59%、そして今週も+13%。その増加分がどこのチェーンで生まれたのか、 オンチェーンデータははっきり答えを出しています。
今週のJPYC純増+2.1億円のうち+1.95億円、実に95%がKaiaチェーン — LINE系ウォレットが動く、 つまりUnifiに預けられるJPYCの居場所です。一方でEthereumは償還が発行を上回り▲0.12億円の純減。 Kaia上のJPYCはこの1カ月で全体の6割(10.6億円)まで積み上がりました。 自販機やコンビニのニュースが「決済のJPYC」の物語を作る一方、直近1カ月の流通量を実際に動かしてきたのは、 LINE経済圏の利回りマネーだった — これが引いた画角で見えるJPYCの実像です。
ただし今週は、その先の変化まで見えました。Kaiaへの流入の勢いが落ちてきているのです。
初速の7/9〜7/10には日次5,500万〜6,800万円あった純流入が、今週は3,500万円台(7/13-14)へ半減し、7/15は420万円まで凹み、7/16は3,200万円へ戻す— 水準を切り下げながら、日々の振れが大きくなってきました。 なぜ蛇口が細り気味なのか。考えられる筋は3つあります。①需要の一巡 — 5%に反応する預け入れがひと通り済んだ。②上乗せ予算の残量 — キャンペーンは「予算消化で早期終了」の条件付きで、配布ペースが絞られ始めた可能性。③7/13のJPYSC 3%登場 — 円で利回りを取る選択肢が増え、5%との相対的な魅力差が縮んだ。 どれが効いたかはオンチェーンからは特定できませんが、減速の起点がJPYSCレンディング発表と同じ7/13週明けに重なるのは示唆的です。 7/31のキャンペーン期限を前に勢いの一巡感が出始めたのかどうか — 来週の最重要ウォッチポイントです。
分析② JPYSC — レンディング発表の直後にミントが動き、証券決済のPoCも始まった
発行から3週間、100億円ちょうどでほぼ一直線だったJPYSCに、今週初めて明確な動きが出ました。 日次のミント(新規発行)額を並べると、その変化は一目瞭然です。
7/13にSBI VCトレードがJPYSCレンディングを発表すると、翌7/14から日次ミントが495万円→1,649万円→3,253万円と3日連続でほぼ倍々に加速。週の純増+5,400万円のほとんどが発表後の3日間に集中しています。 発行の主体や目的はオンチェーンからは分かりませんが、100億円の初期発行以来ほぼ動かなかったコインが、 利回りサービスの発表と同じタイミングで連日ミントされ始めた — この時系列の一致は記録しておく価値があります。
7/15、SBIグループ・シンガポールのDigiFT・Startale Groupが、トークン化証券の決済にJPYSCを使うPoC(概念実証)を発表しました。 イーサリアムのテストネット上で、トークン化された日本株ファンドの申込代金のJPYSC即時決済と、分配金(配当)のオンチェーン自動配布を検証するもので、対象にはDigiFTが扱う約13億ドル規模のファンドのトークン化構想も含まれます。 リテールの利回り(レンディング)と機関の決済インフラ(証券決済) — JPYSCの「機関向け」という設計思想が、 今週両面から具体化しました。※検証用トークンは規制対象の本物のJPYSCとは別物です。 (Chainwire)
対決: 利回り 5% vs 3% — 同じ「円で利回り」でも、中身はまるで違う
今週で、日本円ステーブルコインは2本とも「持っていると利回りが付く」選択肢を持ちました。 両者の条件を正面から比べます。
| JPYC × Unifi | 年率5%(基本2% + 期間上乗せ3%)。上乗せは7/31まで・予算消化で早期終了あり。日割りで毎日支払い。LINEアプリ上のUnifiに預け入れ。利回りの出し手はUnifi(第三者サービス) |
|---|---|
| JPYSC × SBI VCトレード | 第1回は年率3%(サービス全体では1〜3%程度を予定)。12週間の固定・途中解約不可。7/16申込開始。信託型円建てステーブルコインのレンディングは国内初。取引所内で完結 |
率だけならJPYCサイドの5%が上。ただし大前提として、JPYCもJPYSCも、発行体自身が利息を付けているわけではありません(預金との線引きの観点から、資金移動業型・信託型のどちらも発行体は利息を付けない設計です)。 利回りはどちらも「外側」から来ていて、違うのはその出どころ。 JPYCの5%はUnifiという第三者サービスがキャンペーン予算(販促費)から出すもので、恒常的な水準は基本の2%、上乗せ分は期限と予算次第。 JPYSCの3%は販売パートナーSBI VCトレードにコインを貸し出す対価(賃借料)で、12週ロックと引き換えの設計です。 「販促費としての5%」と「貸出対価としての3%」— どちらも銀行預金ではなく預金保険の対象外で、サービス提供者の信用リスクを負う点は共通です。
注目すべきは、この利回り競争がすでにオンチェーンの流通量を動かす主要因になっていることです。 分析①のとおりJPYCの+143%はUnifi開始と重なり、Kaia流入の減速はJPYSC 3%の登場週に起きた。 分析②のとおりJPYSCのミント加速はレンディング発表と重なる。ニュースの派手さでは決済(ローソン・自販機)が目立ちますが、今この市場の資金を動かしているのは利回り — これが今週いちばん伝えたいポイントです。
WebX 2026 — 「1兆円」が語られた2日間。データはもう「非ドル圏2位」を示している
7/13〜14、アジア最大級のWeb3カンファレンス「WebX 2026」が東京で開かれ、円ステーブルコインが主役級の扱いを受けました。 JPYC・JPYSCの両陣営が同じステージに並んだセッションでは、それぞれの設計思想の違いが明快に語られています —資金移動業型で「加盟店契約なしに誰とでも決済・送金できるデジタル現金」を目指すJPYCと、信託型で「発行・償還の100万円制限がなく大口機関に開かれた」JPYSC。 規模の目標も踏み込んだものでした。SBI VCトレードの近藤智彦社長は「1兆円という数字を狙っていきたい」と宣言し、 JPYCの岡部典孝代表は数百〜数千億円規模と、給与・配当など「お金の流れ」そのものへの組み込みを見据えます。 (CoinPost)
そしてStartale Groupの渡辺創太CEOはこう指摘しました — 米国のステーブルコインが50兆円を超える一方で日本は約130億円。 それでも「日本は世界2位を狙えるポジションにいる」。 実はこの言葉、当サイトのデータで答え合わせができます。円建て合算(118.2億円≒$0.73億)は、 スイスフラン建て($0.56億)とポンド建て($0.47億)をすでに上回り、非ドル圏でユーロに次ぐ2位に浮上しているのです。
JPYSC発行前夜の6月中旬、円建て合算は約7億円($0.04億)。豪ドル建てやシンガポールドル建てにも届かない最下位圏でした。 それがJPYSCの100億円とJPYCの急伸で、わずか1カ月で「非ドル圏2位」まで駆け上がったことになります。 もちろん首位のユーロ建て($7.6億)はまだ約10倍先。ただ、ユーロ圏がMiCA施行後も横ばい圏で推移する一方、 円は月次で数十%成長という別次元のペースにあります。「世界2位を狙える」は願望ではなく、非ドル圏ではすでに現実、次の背中はユーロ — それが今週の円ステーブルコインの立ち位置です。
国内の動き — 決済側も着実に前進
日本経済新聞は7/13、ローソンがJPYCを使った店頭決済の実証実験を8月上旬に始めると報じました。 舞台はKDDIとローソンが手がける「ローソン高輪ゲートウェイシティ店」(東京都港区)。 利用者がスマホのHashPort Walletに表示したバーコードを店員がPOSで読み取り、JPYC残高を更新する方式で、POS連動のステーブルコイン決済実証は国内初。 先週の京都・チェリオ自販機(7/1〜)に続き、「小口・高頻度・生活動線」への進出が1カ月で自販機→コンビニへ駒を進めました。 (日本経済新聞)
JPYC社は7/13、発行・償還プラットフォーム「JPYC EX」を大型アップデート。パスキー対応などの認証刷新に加え、外部サービスとの口座連携(第一弾はHashPort Wallet)を発表しました。 ローソン実証で使うのと同じウォレットから発行・償還へ直行できる導線です。同日、JPYC社は オンチェーン流通額20億円突破も発表(各チェーン発行残高の合算値。当サイトの償還差引ネットでは17.1億円)。 (プレスリリース)
海外の動き — Circleが「銀行」になり、規則の期限が来る
| 米国(Circle) | USDC発行元のCircleが米通貨監督庁(OCC)から国家信託銀行の最終認可を取得。ステーブルコイン発行体が州ごとの登録から連邦の銀行監督へ移る画期で、USDCの裏付け資産は約732億ドル。発表を受け株価は一時8%超上昇(Decrypt) |
|---|---|
| 米国(GENIUS Act) | ステーブルコイン規則の法定期限が7月18日に設定されており、本号発行時点で連邦当局が準備金・償還・報告の実務ルールを固める大詰め。施行後は米国で流通するコインの「準拠/非準拠」が明確に線引きされる(CryptoSlate) |
| 構図 | 連邦免許のCircle(USDC)・米国内発行のUSA₮に対し、オフショア発行のUSDTは要件充足が難しいとの整理が主流。欧州MiCA(先週号)に続き米国でも「規制準拠が市場シェアを決める」構図へ(CCN) |
先週の欧州(MiCA発効でUSDT離れ)に続き、今週は米国が主役でした。Circleの銀行免許取得とGENIUS Act期限が同じ週に重なったのは偶然ではなく、 「規制の内側に入ったコインだけが次のステージに進む」という世界的な選別の始まりです。 資金決済法(JPYC)と信託(JPYSC)という法律の枠内で生まれた日本の円建てステーブルコインは、 この選別をすでに通過した側にいる — 海外の混乱はむしろ追い風、という読み筋を先週に続き維持します。
今週のオンチェーン観察 — 毎週水曜の「1万件バッチ」の正体
最後に、データを毎日眺めている当サイトならではの観察を。JPYCの日次トランザクション件数を30日並べると、毎週水曜日だけ約1万件の送金がまとまって走る規則的なパルスが見えます。
6/17、6/24、7/1、7/8、7/15 — 5週連続、すべて水曜。平日の通常が1,500〜3,000件に対し、水曜だけ4〜7倍です。 正体はHashPort Walletの週次キャンペーン配布とみられます。同社はリニューアル記念のWeb3クイズで毎週100万円分のステーブルコインを正解者で山分け配布しており、賞金はJPYC払い。 1万件×平均100円≒100万円と、オンチェーンのパルスと配布規模がきれいに一致します。 キャンペーンのばら撒きと言えばそれまでですが、約1万人が毎週JPYCを受け取る定常フローが既にチェーン上で回っている — この「受け取り体験」の裾野が、ローソンやau PAY連携が動き出したときの初期ユーザーになります。
今週の一言
派手なニュースはローソンとWebXでしたが、数字を動かしていたのは利回りでした。そしてその利回りが作った流通量は、円をひっそりと「非ドル圏2位」まで押し上げていた — 「1兆円」という言葉が大言壮語に聞こえなくなってきたのが、今週いちばんの変化かもしれません。 来週の注目は3つ: ①Kaia流入の減速は一時的か、構造的か(Unifi上乗せは7/31まで)、②JPYSCのミント加速が続くか(続けば月10億円ペース)、③GENIUS Act最終規則の中身。Weekly Stablecoin #003でお会いしましょう。
本号の数値は集計期間末(7/16)時点のオンチェーン記録のスナップショットです(2026年7月17日発行)。本記事は情報提供を目的としたものであり、投資助言ではありません。